【レポート】 藤村龍至個展「ちのかたち――建築的思考のプロトタイプとその応用」

 


 

【レポート】
藤村龍至個展「ちのかたち――建築的思考のプロトタイプとその応用」

 

 

ギャラリー間では、藤村龍至 個展「ちのかたち――建築的思考のプロトタイプとその応用」が2018年9月30日(日)まで開催。2018年8月9日(木)イイノホールで開催された藤村龍至講演会「ちのかたち」も含めて展覧会の様子を紹介します。


1976年埼玉県生まれの藤村 龍至(ふじむら・りゅうじ)氏は、2018年現在41歳の若き建築家です。建築家として住宅、集合住宅、オフィスビルなどの設計を手掛け、2010年よ東洋大学理工学部建築学科専任講師、2016年から東京藝術大学建築科で准教授として勤務。その他、ソーシャルアーキテクトしてSNSを積極的に活用し、インフラの老朽化や人口の高齢化を背景とした住民参加型のシティマネジメント、日本列島の将来像の提言、広く社会に開かれたプロジェクトなど多岐にわたる、インターネット時代にふさわしい活動をされています。

その活動の背景は、より多くの情報や意見を取り入れ集合的な知を形成することで最適な解を導き出し、社会のさまざまな課題に応えることができるのではないか、という藤村氏の一貫した理念からです。
 

 

 


「3人寄れば文殊の知恵」=より多くの知恵を集めること
市民を巻き込み現代に即した、開かれた建築のあり方を模索している藤村氏。平凡な意見も、大きな集合であればひとりの天才を超える可能性があるという考えから、AI(人工知能)の技術が進化し、より多くのデータを直接扱うようになった社会で、多様性を認め、寛容な社会の実現を信じて、より多くの知恵が集まれば集まるほどよりよいものができる、と言い切ることに挑戦するべきではないかと提言しています。

今回のギャラリー間の個展では単純な形状から、細かな与条件をひとつひとつクリアにしながら、多数の模型で比較・検討を重ねていくという藤村氏独自の設計手法を垣間見る事ができます。
 

確かにミーリングマシンや3Dプリンターなどデジタルフォブリケーションツールが多く存在する現在は、模型を中心に少しずつアウトプットしながら集団で設計するやり方は困難な作業ではなくなってきたのかもしれません。

 

展示会場にはグーグル検索で作り出されて椅子が模型で展示されています。大量の情報をひとつにまとめた人工知能でつくった椅子です。大きさや座面の高さ、座り心地のよさなど機能性は問題ないはずです。そこにトレンドの素材や色のデータを入れれば8割型売れる椅子の完成です。ですが、ちょっと魅力性にかけた椅子です。

 

 


一方講演会では、時系列で「そのときにはこういう考え方があった」など小さな案件から大型プロジェクトまでを一つ一つ丁寧な説明がありました。経験を積んでいくと、成功したことも失敗したことも次の経験にフィードバックして次第に複雑なものが実現できるようになる。そういうやり方を取っていれば、一見解きようがなさそうな大きな問題も、解いていけようになるのではないか。そう考えながらこの手法を模索してきたとおっしゃる藤村氏。

「何はともあれアイデアをかたちにして『出してみてから考える』とか『練習する』ことが大事。いわゆるデザインは「形→コンセプト→形→コンセプト」を繰り返して調整すると言う考えです。これはプレゼンテーションをする側もされる側も同じで、繰り返す練習が足りないと「個性的なものは良くない、使いやすいものがいい」という単純な話で終りつまらない形になります。これを2回、3回繰り返す(練習)うちに「個性も必要」となります。

きっと社会政策のような大きな課題でもこの手法と同じだと考えた藤村氏。

実験的なことは、小さなプロジェクトでまずやってみて、ダメなところは直してより大きなプロジェクトにフィードバックする。社会全体をプロトタイピングしながら考えていくというのが、これからの考え方の基本です。自治体やもっと小さなコミュニティでも応用できる方法で大勢の人とコミュニケーションするために投票形式、トーナメント形式で提案をまとめて、クライアントや住民と一緒に調整をしながら設計するやり方を藤村氏は開発しました。この手法は、若い世代を含む多くの人を呼び込み、今後さまざまなイベントでの利活用が見込まれ、地域の活性化が期待されています。

 


自治体の集会所の完成までの模型

 

さまざまなイベントで利活用できる什器を学生たちとデザイン。

 


紙とハト目だけでが出来上がる空間
 


大宮や鶴ヶ島のプロジェクトの進行を映像で紹介

 

 

プロセスを失う(必要性がなくなる)かもしれない局面にある建築デザイン。これからの建築を、世論や市場の中ですべての人々にとって価値のある創造物であると定義するのはとてもむずかしいことです。記憶に新しいところでは、巨額の建設費をめぐって、白紙撤回となった新国立競技場のザハ・ハディド氏案の例があります。

コンクリートの建物は50年がひとつの単位といわれています。1970年代に集中して作ったインフラが、2020年頃に一斉に耐用年数を迎えます。ですが、これからは多くの自治体で高齢者対策の社会保障費に多くの予算がとられ、だんだんと削られていく公共事業費です。これから縮小していく社会では、長期的な視野で慎重に計画を立て、投資をしていかなくてはいけません。

流れが速く流動的で先が読めない現代で、確かな答えに近づくひとつの方法として「3人寄れば文殊の知恵」=より多くの知恵を集めることと考えた藤村氏。ときには機械による計算と設計作業をより多くの人に公開しながら、よりよい解をめざす集合的な知をつくる方法論へと発展させ、建築を社会のさまざまな課題解決に向けた創造的な知のツールとして再定義が必要なのかもしれません。

単純に建築家=建物を設計する人ではなく藤村龍至氏は、いわゆる集団・組織にあるピラミッド構造ではないインターネットやイントラネットという名の水平型ネットワークシステムを使いこなす、ソーシャルアーキテクトを目指す次世代建築家でした。

 

 

 


【開催概要】
展覧会名(日):藤村龍至展 ちのかたち――建築的思考のプロトタイプとその応用
展覧会名(英):Ryuji Fujimura:The Form of Knowledge
――The Prototype of Architectural Thinking and Its Application
会期:2018年7月31日(火)~9月30日(日)
開館時間:11:00~18:00
休館日:月曜・夏期休暇 8月11日(土)~8月15日(水)
入場料:無料
会場:TOTOギャラリー・間
〒107-0062 東京都港区南青山1-24-3 TOTO乃木坂ビル3F
TEL:03-3402-1010 
主催:TOTO ギャラリー・間
企画:TOTOギャラリー・間運営委員会
特別顧問:安藤忠雄 委員:妹島和世/千葉 学/塚本由晴/エルウィン・ビライ
後援:一般社団法人 東京建築士会
一般社団法人 東京都建築士事務所協会
公益社団法人 日本建築家協会関東甲信越支部
一般社団法人 日本建築学会関東支部
https://jp.toto.com/gallerma/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(文:KEIKO YANO (矢野 恵子)  /  更新日:2018.08.22)

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