世界があこがれる職人の技 伝統こけし




知れば知るほど好きになる

こけしのことをもっと知りたいと思ったのは、1年ほど前のことだった。
3年ほど前、海外の友人と鳴子温泉へ行った際、その友人が日本旅行の記念として、8寸ほどの伝統こけしを買って帰った。その時は、こけしに対して何の知識も感情もなく、古い置物とぐらいにしか思っていなかった。
それから2年後、その友人の家へ遊びに行った時、リビングの棚にセンス良く飾られているこけしを見て、はっとさせられた。ヨーロッパ調のインテリアの中に、目を引くオブジェとして存在感を放ち、堂々としているように見え、日本人として誇らしく感じた。その後、こけしを知るにつれて、斬新でポップな柄や顔の表情に魅せられた。この驚きの連続を少しでも多くのひとに味わって欲しいと思い、今回取り上げることにした。



歴史

こけしは、江戸時代末期、東北地方の木地師達が器や椀、盆などを作る合間に子供の玩具として作り与えたのが始まりとされている。特に温泉地で発達した背景には、湯治に来た農民が子供のオモチャや土産物として買い求めたことが大きく影響している。

東北各地に伝わるこけしの名称は地方によって「こげす」「こうげし」「こけすんぼこ」「きぼこ」「でこ」など様々であったが、注文する際、意味が通じなかったため、昭和15年にこけし関係者が集まり、「こけし」とひらがな3文字に統一された。




写真提供:柿澤こけし店



伝統こけし

伝統こけしとは、その土地ごとに根付いた技法、形、柄、顔の表情などが長年に渡り受け継がれてきたもののことを指し、全国の観光地で、お土産として売られている「おみやげこけし」や、「創作こけし」と区別するために、こけしの前に「伝統」と付けるようになった。東北6県が主な産地となっており、その産地によって特徴が異なり、現在は11系統に分類することができる。

 

幕末期の記録『高橋長蔵文書』(1862年)によると「こうけし」子授けしと記されており、子供が授かるという縁起物として扱われ、こけしの頭に描かれている模様の「水引手」は京都の御所人形において、特にお祝い人形の為に創案された描彩様式であり、土人形「赤けし」にもこの水引手は描かれた。こけしは子供の健康な成長を願う、お祝い人形でもあった。こけしの語源を「子消し」や「子化身」など、でたらめな説が出回ってしまったことにより、誤解されてしまうことが多い事も事実である。

 


 



鳴子こけし

こけしのもっとも古い生産地である鳴子。
鳴子こけしの特徴は、首を回すとキイキイと鳴ることで、これは頭部を銅の部分にはめ込む、独特の技法が用いられているためである。模様は重ね菊といって、横から見た菊の姿を重ねて描くものが代表的だ。
今回、親子2代にわたり鳴子こけし職人である、柿澤是伸さんの工房へお邪魔することができた。
柿澤さんは高校卒業後、伝統工芸士である父、是隆さんに弟子入りし、現在では数々のコンクールで賞を受賞され活躍されている。今でも同じ工房で、父と子が作業しており、そこには確実に受け継がれている伝統技術と親子の強い絆があるように感じた。





柿澤こけし店 工房
奥:(父)柿澤是隆さん 手前:柿澤是伸さん




2本目が欲しくなるこけしを作る

「はじめて手にとったこけしが、誰が作ったものであれ、いいこけしであって欲しい。」そう語ってくれた是伸さんは、常に2 本目が欲しくなるようなこけし作りを心がけているという。「はじめは単にカワイイという理由で手に取ってもらえればいいんです。単にカワイイで終わるか、そこから2 本目を欲しいと思ってもらえるかは、1 本目の出会いが関係するんです。」と教えてくれた。
こけしの魅力は、素朴さ、癒しの存在感、あたたかみ、そして何より顔の愛らしい表情にある。顔の表情は目の出来でほぼ決まってしうため、目を入れる時は一番緊張するという。昔に比べ、表情や形、バランスなどをきちんと見て選ぶお客さんが増え、いいものは高くても買うが、それ以外は買わない。そんな職人が勝負のしやすい、はっきりした時代になったのではないだろうか。




自分だけのこけし

鳴子こけし職人の中でも若手である是伸さんのこけしは、斬新で新しいデザインのものが多い。
何百年と受け継がれて来た伝統と、これから受け継がれる新しい伝統の架け橋になるべく、今までにないこけしを試行錯誤しながら生み出している様子がとても印象的だった。

人それぞれの個性が大切とされる今の時代だからこそ、伝統こけしの多様なデザインが受け入れ、素直に楽しむことができるのではないだろうか。まずは、こけしの種類の多さを知ってもらいたい。11 系統のこけしの中に、必ず自分好みのこけしが存在している。また、お気に入りを見つけ、その背景を知ることで、自分が今まで知ることのなかった「日本の良さ」に気づくことがあるかもしれない。そうやって日本の伝統が現代の生活に入り込み、歴史と共に残ってくれることを願っている。




是伸さんの作る斬新なデザインのこけしたち
 


 

 

こけしブーム!?

「こけしのブームは、第1次が昭和10年代(戦前)で、第2次が昭和40年代、そして現在が第3次ブームになりつつあるのかもしれない。」と語ってくれたのは、鳴子木地玩具協同組合、理事長・館長の菅原和平さん。日本こけし館では、昭和32年から毎年、全国の工人たちからこけし祭りへの奉納こけしが贈り続けられているため、11系統全てのこけしが見ることができる。また、こけしコレクターであった、深沢要さんや溝口三郎さんの年代物のレアなコレクションも見ることができ、伝統こけしが、伝統を残しながらも年代によって少しずつ変化を遂げてきたことが実感できる。その他にも実演販売や、絵付体験などができ、子供連れで楽しむこともできる。


鳴子木地玩具協同組合 
理事長・館長  菅原和平さん

 

                                     
日本こけし館 館内写真



デザインの力

「型にはまったものではなく、ニーズに合わせて作るように心がけているんです。面白いもので、伝統からかけ離れてしまうとダメで、伝統のよさをしっかり残さないとお客さんは買わないですよ。」と様々なデザインのこけしを見せながら菅原さんは話してくれた。
第3のこけしブームを後押ししてくれる存在として、cochaekokeshi book鳴子こけし工房めぐりマップがあるという。どちらともポップな色使いのイラストやセンスの感じられる写真で、分かりやすく説明されている。デザインの力で、「忘れさられた日本のよさ」がもう一度見直され、復活しつつあるよい例ではないだろうか。



 


左:kokeshi book  - 編集/デザイン:cochae  出版社:青幻舎

右:鳴子こけし工房めぐりマップ -  イラスト:杉浦さやか  ポエム:沼田元気 



こけしは洗練されたアート

こけしの始まりは子供のオモチャであったが、現在ではその奥深さから大人のコレクターが増え、鑑賞用として購入する人がほとんどではないだろうか。チャールズ&レイ・イームズ夫妻ブルーノ・タウトも伝統こけしを自宅に飾っていた。彼らはこけしに職人の洗練された技や、日本独自の美しさを感じ、楽しんでいたのではないかと思う。
伝統こけしは、原木の段階から仕上げに至まで、全工程を一人の職人が行なう。そのため、それぞれの個性が描彩に表れ、コレクターになると、こけしを見れば誰の作品かわかるという。また、顔の描彩には作り手の気持ちや、その時の状況が反映してしまう。思い描く顔になるまでに何度となく失敗し、納得するものができるまで描き続けることもある。
一方買う方は、何の決まりごともなく、自分の感性や直感で気に入ったこけしを選び、自宅のインテリアとして飾り、人に見せたり、自分自身で鑑賞して楽しむ。選び抜かれたこけしによって、その人のセンスや好みが現れる。こけし選びは、まるでアートを選ぶような感覚なのだ。ぜひ、今までとは違った目線でこけしを見てもらいたい。必ず、うれしい発見や驚きがあるだろう。

 

取材協力者:
日本こけし館
http://www.kokesikan.com
柿澤こけし店
http://sky.geocities.jp/kakizawa_narugo/
 

 

tani mayumitani mayumi
自然との共存、未来に残すべき伝統をテーマに、デザイナーとしてできる事を追求し、具現化しながら、物・空間に新しい命を吹き込んでいく。2006年から株式会社Wonderwallで5年間店舗設計に従事し、数々の海外物件に関わる。2011年に独立後は、現在のニーズを満たすサスティナブルデザインと、洗練された日本の技術を融合させ、新しい日本のデザインを世界へ広めていくミッションをもって活動を始めている。
 

 

(文:谷 真弓  /  更新日:2011.10.28)

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