世界があこがれる職人の技 鳴子漆器

鳴子漆器,後藤常夫


大崎市,鳴子 

350年の歴史


鳴子(なるこ)と聞くと、鳴子温泉、鳴子こけしが一番にあげられるが、鳴子の漆器はそれよりも歴史が長いということをご存知だろうか。
今から350年前に、伊達藩主正宗公が戦が終わり仕事がなくなった足軽たちに、屋敷を与え、漆器作りの仕事を命じたのが始まりだとされている。

鳴子漆器には、
木目の美しさをそのまま生かし、使うほどに深い味わいをもつ生地呂塗

木地に漆を何度もふいてしみ込ませ、
漆の色だけを表面に残して仕上げるふき漆仕塗

独自の技法をつかったものに、墨をながしたような模様を作り出す龍門塗などがある。






後藤漆工房,後藤常夫どうしようもない現実と職人の誇り

鳴子漆器の塗り士である後藤常夫さんが発する、『どうしよもないんだ。』という言葉にはずっしりと重みがあった。
初めて電話で取材をお願いした時、(鳴子漆器なんか取材してもなんにもならないよ。)と断られた。
しかし、そこには大切な本心が隠れているような気がして、再度取材をお願いをすると、(話くらいならいいよ。)と引き受けてくれた。

鳴子漆器協同組合 理事長 後藤常夫さん


『残念だけど、鳴子漆器の職人は10名ほどし残っていないんだ。次の世代に残さないといけないことは頭ではわかってるんだけど、自分たちが苦労しているこの仕事を、子供や孫に誰が継がせたいと思うか?』
自分と同じ状況にある伝統工芸士は全国に沢山いると、寂しそうに話てくれたのが印象的だった。

後藤さんは自分のお店を持っていない。その理由を尋ねると

『お店を持つといいものが作れなくなるから。その月の売り上げや、金儲けのことが頭に入ってきて、それがモノ作りには邪魔になる。』

そう語る後藤さんの作るものには、目に見える伝統の技だけではなく、奥底からにじみ出る自信と誇りが感じられた。




お櫃,なつめ,キャンドルホルダー01: お櫃

ベースの生地は30年前のもの。何年経ってもしっかりしてるのは、生地職人の腕がいい証拠。そんな生地を作れる職人も減っているという。お櫃の需要は少ないため、ワインクーラーとして使用できないかを模索中。

02: 抹茶を入れる棗(なつめ)
ミリ単位で蓋の閉まり具合が変わってしまう。キツ過ぎると、開ける時に抹茶が舞ってしまい、ゆるすぎるとカタカタと音が出てしまう。すーっと蓋が閉まり、木目がピシッと合っている棗に感動。


03:キャンドルホルダー
表面の凹凸はタバコの葉によるもの。50種類以上の技法を知っている後藤さんだから成せる技。

 


 

 

 

 


 

 

 



30年前の自分に出会えた

 


私が取材をする一週間ほど前、後藤さん宛てに群馬県のある方から荷物が届き、箱を開けて見ると、手紙とお椀が入っていたという。手紙によるとその方は、今から30年ほど前に、後藤さんが横浜高島屋で催事をしていた時そのお椀を購入し、どこにしまったのか忘れていたが、最近片付けをしていた際に出てきたという。これからも大切に使いたいので、修理をお願いしたい。という依頼だった。
 
『そのお椀を見たとき、まるで30年まえの自分と再会した気分だった。うれしかったなー。これが職人冥利につきるってもんだ。』

と後藤さんは嬉しそうに話しをしてくれた。
機械では味わうことができない、人と人とのつながりを感じることができるのも、最近手仕事が注目される1つの理由ではないかと私は感じた。



使うほどに現れる木目の美しさ

鳴子漆器,お椀



若者の価値観
 
若者へ伝えたいことを尋ねると、安いからという理由でものを買い、少し古くなったら惜しげもなく捨て、また新しいものを購入する、そんな価値観ではなく、高くても自分に合った本物を選び、使うにつれて実感できる素材のよさや、丈夫さ、そして伝統の技こそに本当の価値を見出して欲しい。と話してくれた。

自分に合うものとは、単にデザイン的好みではなく、自分の手にしっくりくる大きさ、重さ、感触があるという。
以前 ご病気の方で、「後藤さんの作るお椀は丈夫だが、重くて持てない。どうにか軽くならないかな?」という要望があり、その方の為にとても軽いお椀を作った。時には使い手のことを考えながら作ったりもする。


これらのように、これからは売り手や買い手の一方的なものではなく、使い手と職人の密なやり取りがたくさん生まれる市場が必要ではないだろうか。



取材協力者:後藤漆工房 後藤常夫
宮城県大崎市鳴子温泉字新屋敷122-2
tell:0229-83-3628

 

 

 

tani mayumitani mayumi
自然との共存、未来に残すべき伝統をテーマに、デザイナーとしてできる事を追求し、具現化しながら、物・空間に新しい命を吹き込んでいく。2006年から株式会社Wonderwallで5年間店舗設計に従事し、数々の海外物件に関わる。2011年に独立後は、現在のニーズを満たすサスティナブルデザインと、洗練された日本の技術を融合させ、新しい日本のデザインを世界へ広めていくミッションをもって活動を始めている。
 

 

 

(文:谷 真弓  /  更新日:2011.10.03)

この記事へのメンバーの評価

(3.0 point / 2人の評価)  

  • GINGER さん
  • - 評価のみ -
    (2013-11-09 11:58:19)

  • koneo さん
  • 高い物が必ずしもいいというわけではないが、こだわりを持って品物を選ぶことで自分の生活はより豊かになると、そんな気持ちになった。
    (2013-03-29 17:53:42)

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