【コラム】受け継いだのは「飛騨の匠」の技術と美意識


 

【コラム】
受け継いだのは「飛騨の匠」の技術と美意識
北欧デザインとの出会いと融合



 

2019年6月、岐阜県・飛騨高山の家具製造メーカー・日進木工(NISSIN)は、東京ショールームがある五反田の東京デザインセンターにて、デンマーク王立芸術アカデミー留学経験を持つデザイナー松岡智之氏による新作のチェアをお披露目しました。

声が重なり合って一つの歌声となることから「コーラス」と名づけたシリーズのこのチェアは、「また一つ日本の名作椅子が誕生した」と来場者の方々からたくさんの好評を得ました。

【関連記事】
・飛騨高山の家具メーカー 日進木工(NISSIN)新シリーズ「コーラス」からチェア 発表

 


デザイナー松岡智之氏と4月に代表取締役社長に就任された北村卓也氏

椅子にはただの家具ではなくてアートピースとしての存在感もありますが、まさしくそれにふさわしい、どのアングルから見ても美しい意匠の椅子です。


デザイナー松岡智之氏らによるプレゼンテーションと開発秘話のトークイベント

 

 

受け継いだのは「飛騨の匠」の技術と美意識 北欧デザインとの出会いと融合

「飛騨高山の家具」と言えば、品質の高い家具というイメージをもたれる方も多いのでは?と思います。そこで、日進木工(NISSIN)のお膝もとである飛騨を代表する産業のひとつ「飛騨の家具」に注目してみました。


日本国内には、家具の五大産地(旭川、静岡、府中、大川、飛騨)がありますが、タンスや鏡台といった「箱物※1」から家具づくりが始まった他の産地に対して、飛騨高山は昔から、椅子などの「脚物※2」を製造していました。


家具の中で、最もデザイン性が発揮されるのが「椅子」です。「椅子」のデザインでダイニングセットの印象が決まり、部屋の雰囲気も大きく変わります。また、座り心地や安全性などから「品質」の良さを求められるのは当然のことで、必然的に品質が高い家具メーカーが揃っているのが「飛騨高山の家具」となります。


飛騨・高山は、1300年前から500年にわたり、税を免除するかわりに熟練の有能な職人を平城や平安の造都という国家事業に派遣していました。それが「飛騨の匠」に総称され、全国唯一の誇れる木づくり文化と伝統になりました。伝統と言うと「古い」という言葉にとらわれがちですが、それぞれの時代の技術革新の集積であり、その軌跡が歴史と伝統を創ります。その伝統文化を受け継ぎ、現在の飛騨家具は家具の中では難しい「脚物」の高い技術が今日まで受け継がれています。「脚物」家具は、大正9年創業の「飛騨の家具」のパイオニアで、キツツキブランドの飛騨産業株式会社が発祥です。その歩んできた道のりは「飛騨の家具史」の源流そのものであり、更には「日本の洋家具史」と言っても過言ではありません。現在も飛騨高山は椅子の生産が主流で、ダイニングチェアは全国一の出荷量を誇っています。


また、飛騨高山では、1960年初頭から北欧視察などを行い、本場北欧家具の技術研究を重ねてきて、現在、その技術は北欧家具メーカー以上とも言われています。多くの著名デザイナーの名作椅子を製作する北欧ブランド。その技術の高い家具メーカーをもしのぐ技術力は「飛騨の匠」の伝承からではないでしょうか。

そのため「飛騨高山の家具」メーカーが作り出す椅子は、デザインの素晴らしさだけでなく、座り心地も抜群で、また、驚くほど軽いのが特徴です。「これぞ、日本の職人の椅子」と誇らしく思えるほど、品質の高いものです。

それでは、「飛騨の匠」の「家具」は、世界でどれだけの認知度があるのでしょうか。

※1箪笥(たんす)・本箱・食器棚など箱形の家具は箱物。
※2脚物:椅子・テーブルなど、脚のある家具の総称。


 

| インバウンド成功例の飛騨・高山

ここ10年間で人口は約6,300人(6.7%)も減って、2018年には高齢化率が31.9%にもなるのに、年間50万人超の訪日外国人が訪れてインバウンドの成功例としてメディアにも取り上げられることが多い岐阜県高山市。

東京から電車を乗り継いで4時間半、中部国際空港セントレアから電車で3時間半と、決してアクセスが良いわけではないこの地に、人口の5倍にもなる年間50万人超の訪日外国人が訪れています。岐阜県飛騨高山エリアには、江戸時代から明治時代にかけての面影を残した古い町並みに、大人気のハンバーガー専門店、名物の飛騨牛やそれを使ったメンチカツ、高山ラーメンに高山カレーなど、ご当地グルメなども盛りだくさんで、地域の暮らしや生活が魅力の観光コンテンツが勢ぞろいしています。


ですが、訪日外国人の方々は事前に高山を訪問する計画はなく、ほどんどが日本に入国してから「高山」を検索して決めるということです。旅行の出発時には、高山訪問の予定はなかったものの、日本で高山の評判を聞いて、東京から京都へ行く途中で高山に立ち寄るコースが一番多いようです。


世界中からのインフルエンサーのSNSでの発信や、雑誌、書籍での紹介で、年々増加する訪日外国人に対して高山市公式観光のHPは、2018年にスマートフォン対応や11か国語でアクセスできるように大規模なサイトリニューアルをおこないました。高山市はこれまで数々の施策を積み重ねて観光の競争力を高めてきました。11か国語の高山の情報発信はそれらの賜物です。

http://kankou.city.takayama.lg.jp/


【関連記事】
・岐阜県「飛騨高山」の魅力を閉じ込めたトラベル本「山の都・匠の国 飛騨高山」

 

 

| 世界中に発信するインバウンド需要

世界中に「飛騨高山の家具」のすばらしさをアピールできる機会がインバウンド需要です。飛騨の木工連合共同組合は「飛騨の家具フェスティバル」などを毎年開催はしていますが、まだまだインパクトが足りないようです。

https://www.hidanokagu.jp/festival/index.html

 

家具は美しいデザインも必要ですが、実際に使用してみなければ良さがわかりません。

飛騨高山の観光コンテンツは地域の暮らしや生活の世界観です。この地を訪れて空気感を感じてその感動をみんなに伝えているのです。同じように家具も実際に使用してはじめてその良さが伝わります。特に強い影響力や印象のあるホテル、ショップ、カフェなどに置かれていればその空気感も感じることができます。

そのとき世界のインフルエンサーは動きます。

洋家具の代表である椅子のデザインを、北欧デザインを融合させることで高いレベルまで引き上げてきた飛騨高山の匠の技。ですが、技のアピールだけを繰り返してもクールジャパンの成功を成し遂げるのはむずかしいことです。そこには、岐阜県が「飛騨高山」の魅力を数々の施策で観光競争力を高めてきたように、たくさんの方向からのアピールが必要です。

実際に北欧家具は早くから、カフェやホテル、空港ラウンジに設置したりして、クールスカンジナビアを繰り返すことで、世界市場を制覇してきました。北欧家具は観光コンテンツにもなっています。


日本にはたくさんの木工家具の産地やメーカーがあります。技術はどこも世界最高レベルですが、世界的に著名で成功しているメーカーはまだ存在していません。世界のインフルエンサーによってSNSで発信されるようになれば、「飛騨の家具」だけではなく、日本の木工家具全体が観光コンテンツになる日も近いのではないでしょうか。

 

・飛騨高山に開業したホテル「cup of tea ensemble」で使われている家具 >>>>

 

 

 


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(文:KEIKO YANO (矢野 恵子)  /  更新日:2019.06.24)

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