【コラム】日本のお店って値段のわりにサービスよすぎませんか?


北欧デザインと独特のビジネスモデルで世界のホームファニッシングメーカーを牽引するIKEA

 

 

【コラム】
日本のお店って値段のわりにサービスよすぎませんか?

 


回転寿司や居酒屋のチェーン店に入ると、店員さんからひざまずかんばかりに中腰でおしぼりの袋を破って差し出す接客に驚いた。居酒屋での元気すぎるかけ声に、「日本のレストランに入ると攻撃される。怖い」と欧米では有名な話。スーパーマーケットでは高級店なみの挨拶に始って、頼んでいないのに過剰包装してくれる。コンビ二でお弁当を買うと、お絞りはいるか、箸はいるかと毎回尋ねられる。

日本のお店って値段のわりにサービスよすぎませんか?

これは、日本を訪れたことのある外国人の言葉です。


近年ではコンビニは外国人スタッフの力なくしては運営が困難な状況です。そんな中、カタコトで接客する留学生コンビニスタッフに『綺麗な日本語が使える様になってから働け!』と言った年配客に、高校生が『めちゃくちゃ汚い日本語ですね』と後ろから返したとSNSで話題になったことがありました。爽快なスカッとした話です。外国人スタッフだけではなく日本人スタッフにもその場を暗くする暴言をはく光景は、街場のファミレスやファーストフード店でも見かけます。

過剰サービスを提供し、それを安い人件費で雇うことがこの30年当たり前になってしまった日本を浮き彫りにしたようで、やりきれない思いがします。消費者も何の疑問をもたず、それをあたり前としたところが問題です。

今インバウンド需要で潤っている企業も多いようですが、物価が低い割りにサービスの良い日本に、お金を持った外国人が大勢来日しているのが現状です。


 

365日ずーと営業している店の従業員の負担を減す変革

従業員の負担を減らしつつ、サービスの質も高めるための工夫が小売業でも始まっています。

インターネットが広がる前の小売業は近隣の店が最大のライバルでした。価格や商品群をチェックして値段や品揃えの戦略を立てていれば十分でした。しかし今は、検索すれば簡単に最安値の商品や店が調べられます。

リアル店舗を持っている企業は「消費者に店に来てもらう」強い動機付けが必要です。交通費と時間を掛けてまで立ち寄りたくなる「理由」が求められてきています。これからの流通・小売業は同じ業種・業態内での差別化または同質化(同じコトをする)にこだわるのではなく、あらゆる分野にアンテナを張っていかなければいけません。そのためには価格やサービスだけではなく、価値で勝負しなければ小売業の未来はありません。


「インバウンド消費」は、これまで勢いをつけてきた爆買いも一段落がつき、ご褒美やプチぜいたく消費などコト消費に変わりつつあります。とりわけ、消費額が大きい富裕層は日本文化に関心をもっていますので、クールジャパンの「おもてなし」はしっかり残しつつ、社員の負担を減らしながら、サービスの品質、クオリティーを上げることが必要です。高級店やデパートの売りはやはり挨拶、凛(りん)とした待機姿勢、スマートな身のこなしでの接客。それがあってこそ、高級店やデパートで買う意義があります。

デパート業界は、低価格が売りの衣料品専門店や品ぞろえが豊富なネット通販などに押され 売上高はピーク時より4割近く減少しました。営業時間を延長したりして、売上げ減少を抑えようとしましたが事態は一向に改善されません。これを続けても現場の従業員は疲弊するばかり。そんな理由からか昨年あたりから、お正月初売りは2日から、月1回の休館日など営業改善をするデパートも増えてきて、365日ずーと営業している店をやめてきています。

十分に休暇がとれる職場で従業員が幸せであること。それでこそ、価値ある店舗が作れるのではないでしょうか。

 


■ニトリの海外進出

日本のホームファニッシングの製造、小売業の大手「株式会社ニトリ」は2032年までに、店舗数3,000店、売上高3兆円の巨大なグローバル企業になることを掲げています。ニトリは30年間増益増収を繰り返してきた日本の優良企業です。

同じくホームファニッシングとしてすでにグローバル企業として成功しているIKEAは、2006年に日本進出1号店をオープン。それから次々と各地にイケアストアはオープンし、現在10店舗を日本で展開しています。イケア・ジャパンだけの売上げ(2018年)をみると、ニトリの5000億円の売上げに対して840億円と大差をつけられています。この売上げはイケア・ジャパンにとっても決して満足のいくものではありません。これには、公式オンラインストアなどのEC参入の立ち遅れや、IKEA理念である『カスタマー自らが店内で探し、持ち帰り、製品組み立ても行なうのでデザイン性のある商品を安く提供できる』が、流通や組み立てなどのサービスが充実している日本の市場にあわず、また、IKEA商品の最大のターゲットである若者の車離れで郊外にある店舗の不便さなどが理由に挙げて苦戦しています。


ですが、グローバルマーケットからの売上高をみるとニトリは471店で5,200億円、IKEAは340店で売上高4兆7000億円に達しています。1店舗当たりの売上高はニトリの11億円に対してIKEAは111億円と10倍を超える開きがあります。それには、ニトリの店舗戦略は、15万人から20万人程度の比較的小さい商圏で店舗出店に対して、IKEAは大型店戦略で100万人から150万人の大きな商圏に大規模店を出店し、1店舗当たりの売上高が最大になるような出店戦略での違いがあります。


ニトリは店舗の大半が日本国内で展開し、台湾、中国、アメリカと現状はわずか4つの国と地域のみで、IKEAが28カ国に展開しています。それゆえ、ニトリはまだ本格化しておらず、それゆえ伸びしろが大きいともいえると言われています。はたして、すでに成功しているIKEAのようにニトリもグローバルマーケットでの成功はあるのでしょうか。


ニトリとIKEAでは商品の特徴に大きな違いがあります。


両方とも商品企画からデザイン、製造、販売を自社のみで展開するビジネスモデルですが、機能性を重視したベーシックなデザインを主流とするニトリに対して、IKEAは北欧デザインをベースに社内外のデザイナーのアイデアをコンスタントに取り入れた商品が中心で、IKEAブランドを誇示しています。

業界は違いますが機能を重視したシンプルなデザインという商品特性でユニクロを展開するファーストリテイリングが海外進出では成功しています。その戦略で今後、IKEAがヨーロッパを中心に事業拡大を図る中、ニトリは日本企業の強みを活かして中国や東南アジアを中心に集中的にマーケットを開拓していく計画のようです。


ここでユニクロにあってニトリにないものがあります。


それはニトリは、ブランドの特徴が突出しておらず、大ヒットした商品もないことです。ユニクロには「ヒートテック」という驚異的に売上げを伸ばし続ける商品があります。「ユニクロ」というブランド名より認知度の高い「ヒートテック」を背景に数々のマーケティング戦略を掲げて、グローバルマーケットで成功している企業です。

日本での認知度が非常に高くても、アジアではニトリの認知度は低く、2007年に台湾へ進出しても最初の5年は赤字が続き、2012年からようやく黒字。米国、中国ではいまだ赤字が続いています。 日本で売りにしている「低価格高品質」「競争の少ない地域をターゲットとすること」「店舗数を多くすること」「オンラインで購入できるようにすること」は今のところ成果が出ていないようです。

 
また、IKEAの北欧デザインをベースにした商品構成や生活スタイルの提案、無印良品のシンプルだけどどこか違う世界観などに比べ、ニトリの製品は消費者の印象に残りにくく、とくに世界の工場と呼ばれている中国では、海外ブランドの製造で質の高い技術のノウハウがすでにあり、低価格のコストパフォーマンスの高い家具・インテリア商品は多く出回っています。また、最近の中国での消費者は、価格よりも材料、イメージ、デザイン、生活スタイルの提案などを重視するようになって単に安いというだけでは買わなくなっています。そのため単純な低価格路線のマーケティング戦略では中国市場で通用しないようです。

 

■日本の内需の限界

高度経済成長期の日本の景気は安定して上向きで、『一億総中流社会』でした。そのため、多くの場合、女性は働かなくても夫の稼ぎだけで生活できた時代です。しかし、1990年代のバブル経済崩壊を経て、大部分の人は収入が低迷し、徐々に格差が拡大し始めます。GDPでは世界第3位ですが一人当たりGDPは世界で32位。夫だけが働けば家族が食べていける時代は終わりを告げ、1990年代後半には、家計の不足を埋めるために働きに出る妻と専業主婦の妻の割合が逆転しました。サービス市場は安い賃金で労働を得る事ができ、これが30年間、賃金が上昇しなかったからくりです。

賃金の上昇がなければ日本の内需拡大は望めません。ましてやすでに人口が減少し始めている日本にとって、内需に頼る企業戦略はいずれ限界がきます。デフレが続く国は外国からの投資も望めません。外資が入るメリットは賃金上昇です。優秀な人材を確保したい企業は、給与に糸目はつけないとまでは言いませんが、安い賃金で雇用しようとは考えていません。

急激な賃金引上げは、企業にとっても、国の経済にとっても自殺行為です。

まずは日本の消費者も意識を変え、低価格なものにサービス過剰は求めず、企業は働きやすい無理のない環境づくりで従業員の負担を減らしつつ、サービスの質を高められるものはしっかりと高額で提供する。そのような変化は必要ではないでしょうか。

ユニクロはグローバル企業らしく低賃金を改め、従業員の負担を減らすためにセルフレジを導入しました。商品価格も微弱ながら値上げをしています。日本での店舗売上げは低調ですが、海外店舗の増益増収で躍進を続けることで、このような対策がすばやくできるのです。

いくら高品質でも低価格で売り続けていては、日本人はいつまでも低賃金で働き続けなければいけません。「低価格路線は勝利の法則」からそろそろ脱却しなければ、日本のものづくりに未来はありません。

 

 

 

 

(文:KEIKO YANO (矢野 恵子)  /  更新日:2019.06.10)

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